ライター : dressing

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熟成魚をフルコースで堪能するフレンチレストランが誕生

2018年1月2日、日本各地の魚介を味わえるフレンチレストラン『Simplicité(サンプリシテ)』(代官山)がオープンした。オーナーシェフの相原薫さんは、『銀座レカン』でスーシェフを、『レヴェランス』(広尾)と『ヴァリノール』(荻窪)ではシェフを務め、渡仏中はフランスのミシュランガイドで星に輝いたフレンチの名店『アレクサンドル』(ニーム)、『ル・ジャルダン・デ・ランパール』(ボーヌ)などで腕を磨いてきた実力者だ。
キッチンの高さを客の目線に合わせたカウンター席は、相原シェフが指揮を振る姿を間近に見られる特等席。食材を切る音、香ばしく焼ける匂い、一皿の誕生の瞬間に立ち会える贅沢な空間だ。奥にはテーブル席も用意され、記念日の利用もしやすい。
長年、料理人として歩んできた相原シェフにとって、料理は職であり、享楽でもある。「僕、無趣味なんですよね(笑)。休日も食べ歩いたり、友人と酒を酌み交わしたり、気が付いたら料理のことばかり考えています。おいしいものを囲むと幸せですよね」と、自身も食べること、飲むことは大好きということで、料理とワインのマリアージュを楽しめるのも『サンプリシテ』の魅力である。

前菜から心をわしづかみにされる魅惑のコースを一部紹介

『サンプリシテ』のテーマは、「熟成魚」。日本各地で採れた魚介類を使った料理を前菜からスペシャリテまで、存分に堪能できる。五島列島をはじめ、舞鶴、函館、美浜などから、「放血神経締め」を施された魚のみを仕入れている。この処置を施された魚は、血液による腐敗を防ぎ、余計な臭みもなく、身は一点の陰りもなく輝くほどに真っ白なのだとか。そして、よりうまみを凝縮させるために、長いものになると1カ月近くの熟成期間を設けてから初めて食材として使用される。 コースはランチ5,000円、ディナー13,000円の2種類で、その時々の仕入れ状況や季節によっても内容に変化が加えられる。酒宴の始まりは、シェフの遊び心とフランスでの記憶が詰まった数種類のアミューズからだ。
まずは、「噴火湾 毛蟹」(写真上・右奥)。函館・噴火湾産の毛ガニの甘みとカリフラワームースのクリーミーなコクが舌にねっとりと絡みつく。竹炭のワッフルコーンのサクサク感も軽快で、自然とグラスにも手が伸びる。おすすめのシャンパーニュとともに、コースの幕開けをじっくりと楽しみたい。 木箱に入った「熟成イワシ 岩手山田湾」(同左)は、5日寝かせたイワシを、京都『樋口農園』の白ネギを炭化させ、ペースト状にしたソースを塗り、ショウガを加えた米のチップスで挟んだスナックだ。熟成イワシは、舌の温度でとろけ出し、まるで霜降り肉のような脂の甘さ。イワシ特有の臭みはなく、純度の高いうまみが現れ、クリスピーなチップスとのコントラストも愉快な一品だ。
「シラス」(写真上・右)は、サブレの上に、ボルディエバター、釜揚げしらすを68℃で調理した卵黄を和えたものを重ね合わせた。タイムカプセルを掘り起こすように上蓋を開けると、ひんやりとした「マドレーヌ」(同左)がお目見えする。黒オリーブのジューシーな果汁が口いっぱいに流れ、塩気とさわやかな風味で口の中をすっきりとさせてくれる。どちらも相原シェフがフランスにいた時に出会った食材や、レシピをアレンジして作られた思い出の詰まった料理だ。
アミューズの後にサーブされたのは、「函館 縞海老 薔薇」(写真上)。相原シェフ自らが液体窒素をかけると、一瞬にして器いっぱいにもやが立ち込める。切れ間からは徐々に、命を吹き込まれたように薄紅に色づく『奥出雲薔薇園』(島根県)のバラの花びら、そして、艶やかなバラの香りをまとった函館産の縞エビが見えてくる。食材の艶やかさに一気に心が奪われてしまうことだろう。 その味わいは、ねっとりとした甘みのある縞エビと、白ワインビネガーでマリネした爽快なユリ根、コク深いエビのだしジュレ、濃厚なエビミソと、個性的な食材同士がハーモニーを奏で合い、オーケストラのような一体感を魅せてくれる。
淡いブルーのプレートで運ばれてきたのは、「三重 カワハギ」(写真上)だ。三重県産のカワハギとブルーチーズ、カワハギの肝、マッシュルーム、キヌアのサラダ、アーモンドを和えている。仕上げに、相原シェフの最近のブームである“乾燥”させたマッシュルームが飾られている。乾かすことで、味が濃縮し、食感のメリハリも楽しめるのだ。食べる時は、すべての食材が口に入るよう、思い切ってフォークを入れてみてほしい。
お待ちかねのメインディッシュは、「五島林鮮魚店 鮃 烏賊」(写真上)。元々は9kgもあった豊満なヒラメの身をふっくらと焼き上げた極上の代物だ。
漆黒のソースは、スープ・ド・ポワソン(Soupe de poissons)の要領で、煮詰めた魚介エキスとアオリイカの内臓を加えコクを出し、濃密で複雑に重なり合う魚介のうまみを感じられる。対照的なヒラメの上にかかったマヨネーズ風の酸味のある黄色のソースが、まさに陰と陽のコントラストで、見た目と味に広がりを与えている。

“サンプリシテ=誠実さ”を料理というカタチに

これほどまでに多彩な魚料理を堪能できるコースは、他に類を見ない。相原シェフ自身も、『サンプリシテ』のテーマを熟成魚に絞ったことで、もっと料理が楽しくなり、食材に対する追及を深めることができたのだという。
店名の『Simplicité(サンプリシテ)』とは、「誠実な態度」という意味を持つ古フランス語。「丁寧に、正直に食材を作っている生産者の方と、もっと繋がっていきたいです。その思いやストーリーを、自分がスピーカーになって、お客様に伝えられる店にしたい」と相原シェフは意気込む。食材に対する誠実さを持ち合わせ、常に遊び心を忘れないシェフの人柄も、料理の味を決める最高の調味料と言えるだろう。 撮影:平瀬夏彦 【メニュー】 産地直送鮮魚を熟成させた彩り鮮やかなフレンチ 全7皿のランチコース 5,940円 《厳選素材を贅沢に》彩り鮮やかな熟成鮮魚のフレンチ 全12皿のディナーコース 15,444円 ※価格は全て税込

Simplicité(サンプリシテ)

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