ライター : 大谷りえ子

パンディレクター/パンライター

人気店「ブラフベーカリー」栄徳シェフのご贔屓パンは?

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系列店の店頭に立つ「ブラフベーカリー」栄徳シェフ
連載2回目となる今回“ご贔屓パン”を教えてくれたのは、「ブラフベーカリー」の栄徳剛(えいとく・つよし)シェフ。鮮やかなクラインブルーが印象的な人気店のオーナーシェフが選んだ“ご贔屓パン”は、見た目もかわいい菓子パンでした。

「ボンヴィボンの『生クリームあんぱん』が私のご贔屓パンです。実のところ、あんぱんはそれほど好きではないんですが、あのパンだけは、そんな私でも食べたくなってしまう。ちなみに……作っている児玉シェフは、あんこが好きではないんですよ(笑)」

あんぱんが苦手な人にも食べたいと思わせる……、いったいどんなパンなのでしょう。その正体に迫るべく、ボンヴィボンへ取材を申し込みました。

横浜(青葉台)の人気店「ボンヴィボン」へ

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やってきたのは横浜市青葉区・青葉台。閑静な住宅街ですが、パンの激戦区であり、おいしいパンを求めて訪れる方も多いエリアです。東急田園都市線・青葉台駅から歩いて15分ほど。ゆるやかな坂の途中に佇む3階建てのおしゃれな建物がボンヴィボンの店舗です。

店名の「ボンヴィボン(Bon Vivant)」は、フランス語で「幸せに生きる」という意味。実は以前にも訪れたことがあったんですが、こちらのパンを食べると、自然と顔がほころんで、幸せな気持ちになったのを覚えています。

ちなみに、ボンヴィボンには専用駐車場がありません。車での訪店を考えている方は、近隣の有料駐車場を利用するようにしてくださいね。

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パンの形をした黄金色のドアノブをひねると、穏やかなライトに照らされて、おいしそうなパンたちがお出迎え。見た目にもサクサクのクロワッサンやこだわりのバゲット、惣菜パンなどバラエティ豊かなパンが、ところ狭しと並んでいます。

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棚に並んだ「生クリームあんぱん」 1個 180円(税込)
お目当ての「生クリームあんぱん」は、入口のすぐ左手にありました。ひとつひとつていねいに個装され、ちょこんと置かれています。人気商品なので、なくなる前にしっかり確保!お土産用も合わせて3つ購入しました。

さっそく試食!食べても食べてももっと食べたい!

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白い粉糖が帽子みたいに見える、かわいいフォルムでちょっと小ぶりな生クリームあんぱん。さっそくパクッといただくと、やわらかな生地からふわふわの生クリームが飛び出して、口いっぱいに広がりました。生クリームの下にはあんこがぎっしり詰まっていて、ふたつの具材の相性はバツグン!

ひとつでは満足できず、ついつい手が伸びてもうひとつ……。生クリームとあんこ。甘い菓子パンなのに、もうひとつ、またひとつと食べたくなるのはどうしてなのでしょう?

このパンがなぜこんなにクセになるのか解明すべく、ボンヴィボンのオーナーシェフ、児玉圭介さんを質問攻めにしてみました!

生クリームあんパン誕生秘話

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ボンヴィボン オーナーシェフ/児玉圭介さん 2010年「モンディアル・デュ・パン」第3回大会の日本国内予選では、クロワッサン部門・バゲット部門の第1位。「ボンヴィボン」の経営の傍ら、国内外でプロ向けの講師活動をおこなうほか、メディアにも多数出演
祖父も父もパン屋を営み、お父さんの兄弟(6人!)もみんなパン屋さんという、生粋のパン職人の家に生まれた児玉シェフ。職人としての原点は、大阪パン業界の巨匠「パトリエ フクモリ」オーナー、福盛幸一さんとの出会いとのこと。20代のときに福盛さんのパンの食べ、そのおいしさにビビッと感動!その場ですぐに同店で働くことを決め、苦難の修行を乗り越え、自分のお店をもつに至ったと云います。
ーーさっそくですが、生クリームあんぱんのアイデアはどこから生まれたんですか?

児玉シェフ(以降 児玉) 父の店ではパンだけでなくケーキも販売していました。厨房にはいつも生クリームがあり、身近なものだったんです。ある日、何の気なしにクリームパンの生地にその生クリームをつけたら、これが意外においしかった。アイデアの種はその頃からあったように思います。

ーーブラフベーカリーの栄徳シェフに、児玉シェフはあんこが好きではないとうかがったんですが……。

児玉 そのとおり。自分はあんこが好きではありませんでした。

ーーそんな児玉シェフが、なぜあんぱんを?

児玉  福盛シェフのあんぱんを食べたことで、あんこに良いイメージをもてるようになったから……かもしれません。福盛シェフのあんは、小豆の産地にまでこだわったもので、かつて味わったことのない、衝撃的なおいしさでした。

ーーボンヴィボンではいつから生クリームあんぱんを販売しているんですか?

児玉  オープン当初からなので、もう17年作っています。

ーー17年!ロングセラーですね。ふわふわの生クリーム、あの食感をどうやって作り出しているのでしょうか。

児玉 ふんわりとした食感とスッキリとした食べ心地を両立させるため、メーカーさんと一緒にとことん研究しました。甘すぎず、余韻のように残る甘さをイメージしています。

ーー生地のやわらかさも印象的でした。これはどのように?

児玉 パンをやわらかくするため、三温糖を入れています。三温糖に含まれるカラメルがグルテンをやわらかくしてくれるんです。

ーーよくあるあんぱんと比べると、生クリームあんぱんは小ぶりですね。このサイズはどういう理由で決められたんですか?

児玉 行列ができるラーメン屋さんに、麺を少なめにしているところがあるでしょう。あれはあえてそうすることでお客様を満足させず、もっと食べたいと思わせるためだと思うんです。つまり、一般的なあんぱんよりも生クリームあんぱんが小ぶりなのは、リピートしたいと思ってほしいから。17年の間にいろいろ変えながら作っているんですが、生地20g、あん20g、生クリーム20gという比率はずっと同じです。

ーーたしかに、ひとつ食べるとまたひとつとほしくなってしまいます。かなり売れると思うんですが、一日何個作っていますか?

児玉 約100個ですね。断言はできませんが、お昼頃までにいらしていただければ、品切れにはなっていないと思います。心配な方は、ぜひ事前にご予約を。

児玉シェフおすすめの食べ方

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ーー 児玉シェフは生クリームあんぱんをどのように食べるのが好きですか?

児玉 まずはそのままで食べて、ジャムをトッピング。

ーー それはおいしそう!どんなジャムですか?

児玉 おすすめはイタリア産のブラットオレンジジャム。生クリームあんぱんを割ってブラットオレンジジャムをつけると、夏にぴったりなすっきりとした味わいになります。

ーー ほかにおすすめの食べ方はありますか?

児玉 冷凍庫で凍らせてから食べてみてください。シューアイスみたいな感覚で楽しめます。

ーー それは暑い季節に良いですね!おうちで試してみます!

冷凍したら、さらに驚きの食感♪

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冷凍した生クリームあんぱんの断面
取材を終え、パンでいっぱいの我が家の冷凍庫に生クリームあんぱんが仲間入り。しっかり凍らせてから食べてみると、常温で食べたときと変わらない生地のやわらかさにひと驚き!冷やしたことでやや固くなった生クリームは食感が増し、それでいてシャリとも言わぬなめらかさで、まさに極上のシューアイスのような食べ心地でした。

冷やしても生クリームのコク、あんこの風味はしっかりと感じられ、かつさわやかな清涼感が心地良い……。暑い日にこれが冷凍庫に入っていたら、2つ3つと続けて食べてしまいそうです。

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あんぱんは日本で生まれて愛され続ける国民的な存在です。それだけに、今までにもいろいろと工夫を凝らしたあんぱんを食べる機会がありましたが、ボンヴィボンの生クリームあんぱんのおいしさはなかでも印象的なものでした。

「うちは気取ったパン屋ではないから、これからも地元密着で、ご近所に愛され続けるパンを提供していきたい」

そう語った児玉シェフの想いがそのまま形になったような、気取りがなく、嫌いな人なんていないんじゃないかと思える生クリームあんぱん。かつての児玉シェフのように、あんこが苦手という人にも、ぜひ一度試してほしいです。
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