看板もない隠れた名店。「コントワールクワン」は唯一無二の大人のファミレス

蔵前にひっそりと佇む「コントワールクワン」。看板も電話番号もないのに、カウンター席がいつも予約でいっぱいの隠れた名店です。若いシェフが作りあげる40種類以上あるメニューと、自然派ワインで、1年のご褒美に乾杯しましょう。

2019年12月6日 更新

幸食のすゝめ#097、大人のファミレスには幸いが住む、蔵前。

この記事は、豊かなフードライフを演出するWEBメディア「dressing」の提供でお送りします。
「こいつ、若いんだけど面白い料理出すのよ。しかも、ワインが変わってて、これまた面白いんだ」

浅草の方から歩いて来たという男性が友人とご婦人を連れてカウンターに座る。着流しに帽子というコーディネイトが、いかにも遊び慣れた下町の紳士だ。きっと、味にも相当厳しいはず。

そんな先輩が友だちを連れてリピートするのは、丸井(裕介)シェフの腕と実力の成果に違いない。
「なんか出してよ」と言うリクエストに応えたひと皿は、「トマトとベリーとブラッターチーズ」。

「おお、コレおいしいよ、トマトも、このチーズも」。「いや、それ2つとも買って来ただけ、俺が作った訳じゃないから」と、微笑みながら丸井シェフ。

しかし、絶妙の塩加減とひと回しのオリーブオイル、添えられたフレッシュミントと胡椒、ベリーの使い方…。そのすべてに、丸井シェフの並々ならぬセンスが光っている。

看板も電話もないのに、カウンターはいつも予約でいっぱい

コントワールはフランス語でカウンター、クワンは角だから、“路地の角にあるカウンターだけの店”。
名前の通り、店は蔵前の住宅街に突然ひっそりと現われる。目印は白い壁とペパーミント色のボスト、小さな丸い窓から灯りが漏れていたら営業中。閉店していたら、ベニヤ板が立て掛けられる。
店の看板もなく、名前さえ書いてない。でも、丸井シェフの厨房を囲むカウンターは、いつも予約でいっぱいになる。

自然派ワインがつなぐ、ジャンルレスなメニューが40種以上

『コントワールクアン』には、パスタにピッツァ、ニョッキにブルーチーズバーガー、ポルチーニのチマキや、塊から焼く肉まである。
客はまず、コンパクトな店の大きさと、行き届いたデザインセンスに目を奪われ、続いて40種以上あるメニュー数に驚く。
目の前の小さなキッチンで、しかもシェフたった一人のワンオペ(レーション)で、こんな数のバラエティ溢れるメニューが本当にできるんだろうか…?
そう思った瞬間、客たちはもう丸井ワールドのラビリンスに迷い込んでいる。
「ちょっといい大人のファミレスなんですよ」と丸井シェフは謙遜するが、確かにフレンチからイタリアン、中華、ハンバーガーと、その縦横無尽の展開ぶりは他ではまず出逢うことはないだろう。

そして、一見脈略なく見える料理のバラエティをつなぐ架け橋が、自然派ワインというもう1つの主役だ。
つまり、『コントワールクワン』は、自然派ワインに合うというコンセプトで、ノンジャンルのおいしい料理をてんこ盛りにした美食のパラダイス。店の看板も、電話もなくても、こんな店が流行らないわけがない。

土建業から料理人へ、まる4年の修業を経て独立

2011年春、未曽有の被害をもたらした東日本大震災を機に、丸井さんはそれまで働いていた土建業を辞めた。身体1つで始められ、独立できる仕事を模索した結果、行き着いた答えは飲食業だった。
なるべく短期間の間に、1人で店を回せる技術と経験を身に付けるため、中華、イタリアン、ビストロ、餃子屋、京料理、居酒屋と、あらゆる業態を昼夜掛け持ちで修業した。
ベーカリー併設のバーでは、ホテル出身の叩き上げの料理人から料理の技術を学び、パンの技術も習得した。大手チェーン店では、新店の開業を任される。その頃、自然派ワインに出逢い、一瞬にして恋に落ち、自分が出す店のコンセプトが決まる。
近年、注目店が次々とオープンし、脚光を浴びる蔵前エリア。しかし、丸井シェフが開店した2015年頃には飲食店はほぼ皆無。夜まで営業する店などほとんどなかったから、街の人たちに愛される店を目指して、自然派ワインが飲める「大人のファミレス」を目指した。
民家の1階を改造したワイン酒場は、わずか6坪。以前の経験を活かして、外装から内装までのほとんどを自作し、左官も自らの手で完成させた。
人件費はかけられないし、狭いキッチンは1人が限界だから機材に投資した。

たった1人、でもワンオペじゃないキッチン

肉や魚の保存やマリネに使える小型の真空包装機は、営業中の隙間に仕込んだソースの保存にも活躍する。ワンオペでも、塊肉を出すための機材は真空低温調理器。解凍した肉の湯煎は機械に任せて、ガスとオーブンで仕上げる。ドイツ製の食器洗浄機は洗剤の量、洗浄時間が3パターンで調節でき、営業中、調理や接客に集中できる。
店一番の働き者に敬意を表して、シェフは「洗井良子さん」と人名で呼ぶ。他の3人も、それぞれ「空気抜久」、「温度保」。スチームコンベクションオーブンは、「何でも焼く男」だ。

“ワンオペだけど、1人じゃない”丸井ワールドは、じわじわと客たちのハートを魅了し、誰もがリピーターになって行く。

ピッツァ窯を使わなくともこの旨さ! 我流レシピで作る「ナポリ風ピッツァ」

店のどこにもピッツァ窯なんてないのに、誰もが驚愕する異次元のピッツァは、「赤ナイト」という強力粉とデュラムセモリナ粉の「ソティール」を同割で配合し、前日までに生地を仕込み、低温で長時間発酵させる。客の注文が入ると、目の前のキッチンでくるくる回して成形し、オーブンへ。
仕上げにガスの直火とバーナーで焦げ目を付ければ、モチッとしたナポリ風のピッツァが目の前に登場する。

肩肉などのかたい部分を中心に、極粗挽きと手切りの肉を合わせた自家製ハンバーグやブルーチーズバーガーも人気だ。パンももちろん自家製だが、ハンバーガー用のバンズだけは、高級ハンバーガー店のバンズを数多く手がけている新宿のベーカリー『峰屋』に特注して仕入れている。
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