ライター : 梶田 香織

バタートースト評論家

実は技あり!店頭に並ぶレーズン食パン

レーズン食パンって、単にパン生地にレーズンを混ぜればできるんでしょう? そんな風に思われがちです。 でも実は、レーズンの味や量がおいしさの決め手となるのはもちろんですが、パン生地のおいしさをキープしたまま作るというのは、とっても難しいことなのです。 なぜならば、レーズンがパン生地の水分を吸ってしまうから!
だって、レーズンは乾燥しているんですもの。食パンとして焼き上がったあとも周りの水分を吸い続けようとするため、どうしてもパン生地がパサパサしがちになるわけです。
特にスーパーなどで並んでいる商品は町の焼き立てパン屋さんと違って、お客さんが買って帰ったあと3日ほどはおいしさをキープしなくてはいけないため、パン生地の味や食感とレーズンとの相性をコントロールするのにさらに高い技術を要します。
私がパスコでの開発業務時代に初めて手掛けたパンは、レーズンのほかにぶどう果汁をたっぷり使い、パン生地でもジューシーなぶどうの風味を楽しめるというレーズン入りパン。 レーズンも果汁の量も、少ないと味が出ないし多いと膨らみにくく価格も高くなるし、と壁も多く……完成して店頭に並んだ時はほんとうに嬉しかったです。

比べてみるとおもしろい、大手3社の違い

さて、今回は大手製パンメーカー3社のレーズン食パンを比べてみます。もちろん、トーストしていただきますよ。 レーズン食パンはほとんどの場合、ほんの少しでもトーストした方が断然おいしく食べられます。ただし菓子パンの場合は別ですが。
ヤマザキ、PASCO、フジパン。3社ともパッケージはぶどう色です。 フジパンの「本仕込」はパッケージにぶどうの画像がありませんね。でも、食べ比べてみるとその理由はよくわかります。その話はのちほど。
写真は左から、ヤマザキ、PASCO、フジパンです。
購入する際は、きっと皆さんがそうされるように、私もできるだけ「レーズン多め」を狙って選んできました。ですが、こうして並べてみると各社のレーズンの量には意外と差がないことにちょっとビックリ。 それよりも味と香りはもちろん、生地の違いが特徴的でした。
各社の違いについてはこれから詳しく述べていきますが、総じていえることは「レーズン食パンの焼き加減は軽めがおすすめ」ということ。焼き過ぎるとレーズンが焦げたりパンがバサバサになってしまったりするからです。 もちろんバターは、以前こちらの記事で書いたように素早く塗ってくださいね。

ヤマザキ「レーズン好きのレーズンブレッド」

こちらはまず、袋を開ける瞬間を楽しんでください。すごいです。 ワイン樽のふたを開けたかのようにグワァ~ンと、深くて濃い芳醇なレーズンの香りに包まれます。この時点でコックリした味が想像できるはず。
なんといってもレーズンの粒の弾ける食感がたまりません!他社に比べると少し小ぶりですが、プチッと弾け、想像以上にコクのあるギュッと凝縮された濃い味が口に広がります。
ん?そういえばパンの味はどこへやら。生地のもちもち感もかなり嬉しい特徴ですが、とにかくレーズンが、どうだ!どうだ!どうだー!と攻めてくるようなレーズン三昧でパンへの意識が……。まさにレーズン好きにはたまらない、レーズンを食べるためのパンといったおいしさです。
パン生地自体の味はあまりしないため、味の強いバターを合わせるとレーズンとはミスマッチ。ふんわり軽いテイストの発酵バターなどが好相性です。

PASCO「レーズンブレッド」

先ほど3社のパンを並べたとき、PASCOのパン生地が黄色かったことに気付かれましたか?このパン生地の色の濃さには訳がありました。 味が濃い!レーズンの味も濃いですし、パンにもキレのある甘みがついています。決して甘ったるくならないよう糖の種類とシナモンのようなスパイス系の味でキリッと仕上げています。 トーストするとパンの焼ける風味もしっかり立ち、甘いだけではない全体的な味や香りの出し方、さらに焼いても維持されている菓子パンのようなしっとり感。PASCOの技術の結集をここに見た、という感がありました。
パッケージに書いてあるD.O.Vレーズンとは、房のままの状態で乾燥させたレーズンのこと。味の濃さはここからも来ているようです。
なにしろ味が濃いのでさらに味の強いバターをつけると喉が渇くほど。でも、か弱いバターをつけると負けてしまうので、逆に塩味もしっかりついた味の濃いバターをぶつけていくのがおもしろいでしょう。 名古屋の味噌カツを味わうかのように、名古屋に本社を置くPASCOのガツンとした味をぜひ楽しんでください。

フジパン「本仕込レーズン食パン」

3社のなかではレーズンの香りが弱く、逆にもっともパン生地に存在感があるのがフジパンの「本仕込」です。 これが悪くないんです。ヤマザキ、PASCOの商品は、どちらかというとレーズンの味のする食パン。こちらは、食パンにレーズンが入っているという感じ。あくまでも食パンがメインです、という主張を感じます。パッケージにぶどうの写真がないのも納得です。
しかも、ご飯のような“もちもち”食パン文化を最初に作ったのではないかとの声もある、自慢の本仕込生地。トースト本来のおいしさを感じられます。
ですが、この一見頼りなさそうな薄茶色のレーズンが食べてみるとすばらしい威力を発揮するんです!
レーズンがとても大きくてやわらかく、本仕込のもちもち生地を噛んでいるうちにジャムのように口の中に広がり、パン生地に絡み合い、「ほ~ら、レーズン食パンの味になったでしょ」という感じ。 パンがレーズンの味を引き立て、レーズンがパンの味を引き立て、ナイスコンビネーション!これは食べていて楽しい!
本仕込シリーズは、生で食べるとボソボソに感じますが、それはごはんを冷たいまま食べるようなもの。断然トースト向きのパンなのでぜひ焼いてお召し上がりください。 トーストするとパンの風味も良くなるため、それを引き立てる無塩バターで食べると相性ピッタリです。

レーズン食パンをさらにおいしく食べるコツ

はじめに書いた通り、レーズン食パンはレーズンに水分を奪われてしまうため、焼き上がった数日後もパン生地にしっとりモチモチ感を残すのには研究された原料配合率や高い技術を要します。 「レーズン食パンってパッサパサだよね」 そんな昔のイメージで止まっている人には、劇的に進化している現代のレーズン食パンをぜひ食べていただきたいです。
※掲載情報は記事制作時点のもので、現在の情報と異なる場合があります。

編集部のおすすめ