ライター : でぐでぐ

さんまを漢字で書くと?

秋を代表する魚「さんま」。塩焼きにしても、さんまご飯にしても、煮付けにしても、たたきにしても、どうやって食べてもとってもおいしいですよね!目黒のさんま祭りへ行ったことがある方もいらっしゃるかもしれません。秋になると、居酒屋やレストランのメニューもさんまでいっぱいになります。 ところで、「さんま」を漢字で書けますか?マグロは「鮪」、イワシは「鰯」、サバは「鯖」と、魚の名前には魚へんがつく漢字を使ったものが多いですが、「さんま」は違うのです。その理由をお教えします!

なぜ魚へんではなく「秋刀魚」なの?

多くの魚類の名前は、魚へんの漢字1文字で表されるものが多いですよね。お寿司屋さんの湯のみや手ぬぐいなどで、魚へんの漢字がずらーっと並んでいるのを見たことがあるかもしれません。しかし、さんまは漢字で「秋刀魚」と書きます。なぜ魚へんの漢字1文字ではないのでしょうか? 「さんま」の語源については諸説ありますが、その細長い姿から「狭真魚」と書いて「さまな」と呼ばれていた、とする説が有力です。「踏みつける」という言葉を言いやすく「踏んづける」と崩すのと同じように、「さまな」も「さんま」に変わってきたんです。

さんまを一文字で書くとやっぱり「鰍」?

多くの魚類に魚へん一文字の漢字が与えられているように、さんまも一文字の漢字で名前を表すとしたら……秋を代表する魚なので、魚へんに秋で「鰍」でしょうか?答えは、不正解。この漢字は「かじか」と読みます。 かじかは、一見すると食べるのをとまどう「ハゼ」のような見た目の魚です。マイナーな魚ですが、汁物、鍋料理では奥深い味わいのだしが取れるため、「なべこわし」とも呼ばれているんですよ。ちなみに、「鰍」は中国で「ドジョウ」を意味します。 江戸時代には、魚へんに祭と書く「鰶」というさんまの表記もありました。この漢字の由来には、さんまが市場にたくさん並ぶと庶民が大よろこびしてお祭り騒ぎになったという説や、さんま漁の船の中は大変忙しく、大勢の漁師さんが一度に動き回ってお祭り騒ぎになったという説があります。 この「鰶」という漢字は、元々中国でニシン科の「コノシロ」という魚を表していました。当時の中国ではさんまを食べる文化がなく、さんまには魚へんの漢字一文字の名前が与えられていなかったんだとか。 日本ではさんまを「鰶」と表記して、コノシロには「鮗」という漢字を与えることにしました。冬が旬の魚、という意味を持っています。しかし、その後さんまは「秋刀魚」という漢字が当てられるようになります。現在では、「鰶」も「鮗」もコノシロを表す漢字として認められています。

「三馬」という呼び名も

私たちがよく知る「秋刀魚」という表記は、大正時代から広く使われるようになった新しいものです。「秋」が旬の「刀」のような「魚」なので、「秋刀魚」という当て字がされたのですね。 それ以前は漢字が定まっていなかったようで、当て字遊びが好きだった夏目漱石は「我輩は猫である」の中で「三馬」という表記をしています。この表記には、魚市場のセリでサンマの「サ」の音があまり響かず、「ンマ」「ウマ」と呼ばれていたので、当て字として「馬」が使われたという由来があります。

江戸時代、さんまは嫌われものだった!

ここまで、さんまについてのさまざまな表記を紹介しました。漢字に「祭」の文字を入れたり、「うまい」から「馬」の字を使ったりと、あらゆる層から愛されていたように思われますが、意外なことに江戸時代の料理本の中にはさんまに関する記述がほとんどないんだとか。

なぜさんまの呼び名がなかったの?

江戸時代初めには、さんまはサヨリの仲間だと思われていて「沖サヨリ」と呼ばれていました。さらに、その味わいについては「はなはだ下品なり」「サユリよりは劣る」「魚中の下魚である」とボロボロに書かれているのです。現在では秋の味覚の代表格であるさんま。この事実には驚きですよね。 ロウソクや燈油が高価で、庶民はなかなか手を伸ばせなかった当時、燈油の代わりにさんまの脂を集めて明かりを灯していたという記述があります。当時はさんまの余分な脂を落としておいしく食べる方法が見つかっていなかったのかもしれませんね。さらに、形が刀に似ていることもあり、武士は口にするのを嫌がったそうです。 なかなか呼び名が決まらなかったのは、庶民の興味があまり集まっていなかったことが原因と考えられます。 ▼さんまの旬や生態については、こちらの記事もチェック!
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