ライター : 堀田 らいむ

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カース・マルツゥとは?

サルディーニャ語で「腐ったチーズ」の異名を持つカース・マルツゥ。ネットでは「絶対に検索してはいけない言葉」に入るほど、ショッキングなチーズなのです。グロテスクなものや虫が苦手なひとは、この先を読み進めないほうが良いかもしれません。覚悟はいいですか? この「カース・マルツゥ」を発酵させるのは、なんと「ウジ虫」なんです!虫の中でももっとも汚く、嫌われる虫のひとつ……。チーズを切った瞬間、ウジ虫が飛び出る様子には言葉を失います。もちろんチーズの断面にもウジャウジャと無数のウジ虫がうごめいています。 今ではその危険さゆえ、販売が禁止になったものの、あんまりおいしいからこっそり食べている人々もいるのです。にわかには信じがたいですよね。ちょっと驚きですが、世界には色々な珍味があることがこのことからもわかるというものでしょう。

カース・マルツゥの作り方

もともとは普通のペコリーノサルドというチーズなのですが、熟成の過程でチーズバエの1種ピオフィラ・カゼイが登場します。このチーズバエが卵を産み付けたペコリーノサルドは、3カ月ほど放置されます。卵から孵化したウジ虫がチーズを食べて消化すると、チーズの発酵、脂肪の分解が促進され、口の中でとけてなくなってしまう様なトロトロ食感に仕上がるのです。 チーズバエの幼虫による発酵は、通常の発酵では考えられないほどのハイペースで進みます。幼虫の大きさは8ミリ程度。カース・マルツゥを食べる時に感じるほろ苦さは、幼虫の体液によるものらしいです。舌の上でとろける食感、ゴルゴンゾーラのような個性的な匂い、知る人ぞ知るカース・マルツゥの完成です。 このチーズバエの幼虫は、身体に何かが触れると、最高15㎝ほど飛び上がる性質の持ち主。チーズを切ったときにウジ虫が飛び出るのは、この性質によるものだったんですね!食べる時は目に入らないように気をつける必要があるそうですよ。

カース・マルツゥの味と食べ方

高級珍味カース・マルツゥの食べ方をご紹介します。 熟成を通り越して腐敗に近いトロントロン食感にしあがったカース・マルツゥは、赤ワインと一番相性がよいそうです。クリーミーなチーズ、重厚な赤ワインのコンビネーションの良さはよく聞きますが、ウジ虫入りチーズとなるとハードルがかなり上がりますよね。 幼虫を取りはらって食べる人もいるようですが、中には幼虫ごと食べる強者も地元には多くいるようです。小さな幼虫なのでひとつひとつ取り除いてから食べるのは至難の技なので、知らないうちに食べてそうですね。強いワインと共に食べられるのは、アルコール消毒の意味も含まれているのかも知れません……。

販売が禁止されたカースマルツゥ

今ではその危険さゆえ、販売が禁止されているカース・マルツゥ。ひとつ目の理由は、発酵を通り越した腐敗状態のチーズを食べる危険性。ふたつ目は、食べた者が重篤なアレルギー症状を引き起こすことがあるため。みっつ目は、チーズとともに食べたウジ虫が稀に胃を通り越して、腸内に寄生もしくは腸壁を破いてしまうから。どれも恐ろしい理由ですね。 以上の理由から、イタリアではカース・マルツゥの販売を禁止しました。腸内に幼虫が寄生したらどうなるか。重い病気を引き起こすことはあまりないそうですが、腹痛や吐き気などの原因になる場合があるそうです。

どうしても興味がある方は?

ここまで聞いてどうしてもカース・マルツゥに興味を持ってしまったあなたは、思い切ってイタリア・サルディーニャ地方を訪ねてみてはいかがですか。イタリア政府によって禁止されているカース・マルツゥの製造・販売。実は地元サルディーニャ地方では、昔からの歴史と文化が育んだチーズとでも言わんばかりに、禁止令があまり守られていないのが現実です。 さらにこのウジ虫チーズ、もともとのペコリーノサルドのおよそ3倍の高値で取引されているそうです。正規の市場では目にすることがないかも知れませんが、闇市も昼間に普通に発見できるのがサルディーニャ地方の面白いところ。 地元の人たちはおいしいチーズを食べるように口に運びますが、その危険性を口に含む際は、ぜひ自己責任で味わいましょう!食べるまでは勇気が出なくても、世にも危険なチーズにお目にかかえただけでも貴重な経験になるはずです。

世界のグロテスクな食べ物

ウジ虫チーズのカース・マルツゥだけでなく、世の中には人間の想像を超えるような食べ物が探せばあるものです。たとえば孵化する寸前のアヒルの卵、アザラシのおなかで長期間熟成させるウミスズメ。日本国内で古くから食べられる保存食・イナゴの佃煮も、国と人によっては信じられないと思われる食べ物かも知れませんね。気持ち悪いの一言では片づけられない理由や歴史があるのかもしれませんが、食べるにはとても勇気がいることは想像ができます。
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